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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)1502号 判決

原告 金華漁網株式会社

被告 中野周一 外四名

主文

一、被告中野周一、同菅野金吾、同大坂信一郎、同熊谷正太郎、同遠野カナの五名は連帯して原告に対し金二十三万六千五百四十四円八十銭、及び之に対する昭和二十六年八月一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二、被告中野周一、同菅野金吾の両名は連帯して原告に対し金二十七万円、及び之に対する昭和二十六年十一月一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三、原告の其の余の請求は之を棄却する。

四、訴訟費用は之を五分し、その一を原告の負担とし、その三を被告中野周一同菅野金吾両名の連帯負担とし、その一を被告等五名の連帯負担とする。

五、この判決は原告勝訴の部分につき、原告において、被告中野周一同菅野金吾に対し各金十五万円、その他の被告に対し各金七万円の担保を供するときは、夫々仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告中野周一同菅野金吾同大坂信一郎同熊谷正太郎同遠藤カナの五名は連帯して原告に対し金二十五万四千三百三十円八十銭及び之に対する昭和二十六年八月一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、被告中野周一同菅野金吾の両名は連帯して原告に対し金四十三万円及び之に対する昭和二十六年十一月一日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の連帯負担とする」との判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

第一、被告中野同菅野同大坂同熊谷同遠野の五名は訴外津田卓治と共同して、金額二十五万四千三百三十円八十銭、振出日昭和二十六年五月十八日、満期同年七月三十一日、振出地岩手県気仙郡気仙町、支払地同県同郡高田町、支払場所株式会社岩手殖産銀行高田支店、受取人原告なる約束手形一通を振出して之を原告に交付し、原告は同年七月三日右手形を訴外伊藤忠商事株式会社に裏書譲渡し、同訴外会社は同年七月十四日更に右手形を株式会社東京銀行に裏書譲渡し、同銀行は満期に右手形を支払場所に呈示して支払を求めたが支払を拒絶せられ、原告は同年八月二十日同銀行から戻裏書を受けて再び右手形の所持人となつた。

よつて共同振出人たる被告等五名に対し連帯して右手形金二十五万四千三百三十円八十銭、及び之に対する満期の翌日たる昭和二十六年八月一日以降完済に至るまで年六分の割合により遅延損害金の支払を求める。

第二、被告中野同菅野の両名は訴外鈴木博と共同して、金額四十三万円、振出日昭和二十六年九月二十四日、満期同年十月三十日、振出地支払地共に岩手県気仙郡高田町、支払場所株式会社岩手殖産銀行高田支店、受取人原告なる約束手形一通を振出して之を原告に交付し、原告は同年九月三十日右手形を訴外伊藤忠商事株式会社に裏書譲渡し、同訴外会社は同年十月十五日更に右手形を株式会社東京銀行に裏書譲渡し、同銀行は満期に右手形を支払場所に呈示して支払を求めたが支払を拒絶せられ、原告は同年十一月十日同銀行から戻裏書を受けて再び右手形の所持人となつた。

よつて共同振出人たる被告両名に対し連帯して右手形金四十三万円、及び之に対する満期後の昭和二十六年十一月一日以降完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

尚第一の約束手形については、訴を提起する場合の裁判所は大阪地方裁判所とする旨の管轄の合意が存するものである。と述べ、被告等の第二の約束手形についての管轄違の抗弁に対し、管轄は訴提起の時を標準として定まるもので、本件に於ては原告は当初伊藤忠商事株式会社をも共同被告として同会社の本店所在地を管轄する大阪地方裁判所に訴を提起したのであり、そして被告等をその共同被告として同裁判所に訴を提起することは訴訟法上許されているのであるから求訴は適法である。また被告等は伊藤忠商事株式会社に対しては原告は遡求権を有しない旨主張するが、斯ることは管轄を定めるについて判断せらるべき事柄ではない。従つて被告等の管轄違の抗弁は理由がない。と述べ、

被告等の本案についての抗弁に対し、

(一)  昭和二十六年三月二十日頃被告中野が原告から金七十五万四千三百三十円八十銭に相当する漁網を買受け、その代金支払の為に被告等五名が共同して三通の約束手形を振出し、之等約束手形が書替えられて被告等主張の如く(イ)金額二十万円満期昭和二十六年五月三十一日、(ロ)金額三十万円満期同年六月三十日、(ハ)金額二十五万四千三百三十円八十銭満期同年七月三十一日の三通の約束手形となり、その後(イ)(ロ)の約束手形は決済され(ハ)の約束手形(本件第一の約束手形)が残つたことは認める。

然しながら右漁網の取引は被告中野と訴外吉田良治郎の両名が訴外三和産業株式会社の仲介によつて漁業資材購入券引替えに原告に注文して来たもので、その購入券の綿糸換算総量は八四六玉であり、そして当初注文の際の右両者間の割振りは被告中野の分が三五四玉、訴外吉田の分が、四九二玉という申込であつたので、原告はその申込通り被告中野に対して三五四玉六分に相当する漁網(此の代金七十五万四千三百三十円八十銭)を引渡したのであつた。

ところが購入券の精算期に至つて、被告中野と訴外吉田との間に漁業資材購入券の入繰りがあつて、中野の権利に属するものは実際は二四〇玉しかない(吉田の分は六〇六玉)ことが判明したので、原告は仲介人たる訴外三和産業株式会社及び被告中野と協議の結果、原告が被告中野に引渡した出荷超過分一一四玉六分については被告中野から綿糸の新価格決定次第これに相当する代金の追加支払を受けることに話がまとまつた。而して新公定価格が決定せられた後右出荷超過分の追加代金を計算すると金十八万二千二百十四円となるから、被告中野は原告に対し前記代金七十五万四千三百三十円八十銭の外に出荷超過分についての追加代金として金十八万二千二百十四円を支払う義務があるのである。

(二)  尚その後被告中野が原告から金四十二万七千五百円に相当する漁網を買受け、その代金支払の為に被告中野同菅野が共同して金額四十三万円満期昭和二十六年十月三十日の約束手形(本件第二の約束手形)を振出したこと、及びその後被告中野から原告に対し昭和二十六年十月十七日に金二十万円、同年十二月十五日に金一万円、昭和二十七年六月二十四日に金十五万円、以上合計金三十六万円の支払があつたことは認める。

然しながら初めの金二十万円は第一回目の取引の追加代金十八万二千二百十四円に対する支払として受取つたもので、その剰余金一万七千七百八十六円は右の如く第一回目の取引残代金支払の為に受取つた金の残金であるから之は本件第一の約束手形金二十五万四千三百三十円八十銭の内入に充当せらるべきものであり之に充当した。次にその後に受取つた金一万円及び金十五万円は本件第二の約束手形金四十三万円の内入に充当する約束のもとに受取つたものであるから第一の手形とは関係がない。仮に斯る充当の約束がなかつたとしても、被告中野は前記支払に際し何等充当の指定をしなかつたから、原告は右の如く充当することを表示して受取つたものである。

と述べた。〈立証省略〉

被告等訴訟代理人は、

本案前の答弁として「本件第二の約束手形に対する訴を却下する」との判決を求め、その理由として、原告は本件第二の約束手形の請求について当初被告中野同菅野の外に訴外伊藤忠商事株式会社をも共同被告として同訴外会社の普通裁判籍を管轄する大阪地方裁判所に訴を提起したのであるが、原告の主張自体に徴しても明かな通り、右手形は原告から訴外伊藤忠商事株式会社に裏書譲渡し、訴外伊藤忠商事株式会社は之を株式会社東京銀行に裏書譲渡し、原告は東京銀行から戻裏書を受けて再び右手形の所持人となつたものであるから、原告は訴外伊藤忠商事株式会社に対しては遡求権を行使し得ない立場にあり、結局残る被告は中野と菅野である。而して被告中野同菅野の普通裁判籍及び右手形の義務履行地を管轄する裁判所は共に盛岡地方裁判所一関支部であるのに拘らず原告は殊更に訴外伊藤忠商事株式会社を共同被告として大阪地方裁判所に訴を提起したのであるから斯る訴は不適法として却下せらるべきものであると述べ、

本案の答弁として「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として、被告等が共同して本件二通の約束手形を原告宛に振出し、その後原告主張の如き裏書を経て原告が再びその所持人となつたこと、及び右二通の約束手形が満期に不渡となつたことは認める。

然しながら其後本件第一の約束手形については被告中野が支払を了し、第二の約束手形についても同被告が内金十万五千六百六十九円二十銭を支払つたから残金は三十二万四千三百三十円八十銭に過ぎない。即ち

(一)  原告は漁網類の製造販売を業とする会社で被告中野は漁業を営んでいるものであるが、昭和二十六年三月二十日被告中野は原告から金七十五万四千三百三十円八十銭に相当する漁網を買受け、その代金支払の為に昭和二十六年三月二十三日被告等五名が共同して原告宛に三通の約束手形を振出しておいたところ、被告中野の営業の思惑違により期日に支払うことが困難となつたので、之等三通の約束手形は同年五月十八日に書替えられて(イ)金額二十万円満期昭和二十六年五月三十一日、(ロ)金額三十万円満期同年六月三十日、(ハ)金額二十五万四千三百三十円八十銭満期同年七月三十一日(本件第一の約束手形)の三通となつた。そして被告中野は之等三通の約束手形に対し、昭和二十六年五月三十日に金十万円、同年五月三十一日に金二十万円、同年七月五日に金二十万円、以上合計金五十万円を支払つたので、右(イ)(ロ)の約束手形は決済せられ、(ハ)の本件第一の約束手形のみが残つた。

(二)  其の後被告中野は同年七月二十四日から同月三十日迄の間に更に原告から金四十二万七千五百円相当する漁網を買受け、その代金支払の為に同年九月二十四日被告中野と菅野が共同振出人となつて原告宛に金額四十三万円満期同年十月三十日の約束手形(本件第二の約束手形)を振出した。

而して以上本件二通の約束手形に対して被告中野は、昭和二十六年十月十七日に金二十万円、同年中に金一万円、昭和二十七年六月二十四日に金十五万円、以上合計金三十六万円を支払つた。そして右支払を為すに当り被告中野は本件二通の約束手形のいずれに充当するかを指定しなかつたし、又原告からも本訴に至る迄どの手形に充当するかを指定されなかつたから(若し原告が本訴に於て充当指定の意思表示をするなら被告は之に対し異議を述べる)、結局法定充当の規定に従い右支払金三十六万円は先に弁済期が到来した本件第一の約束手形金二十五万四千三百三十円八十銭の支払に充当され、残余金十万五千六百六十九円二十銭は本件第二の約束手形金四十三万円の支払に充当せらるべきものである。

従つて本件第一の手形債務は既に消滅し、本件第二の手形債務については金三十二万四千三百三十円八十銭が残存するのみであると述べた。〈立証省略〉

理由

先づ被告等の本件第二の約束手形に関する本案前の抗弁について按ずるに、原告が本件第二の約束手形金の請求について当初訴外伊藤忠商事株式会社をも共同被告としてその普通裁判籍を管轄する大阪地方裁判所に訴を提起し、後日右伊藤忠商事株式会社に対する訴を取下げたことは当裁判所に顕著なところである。而して一の訴を以て数個の請求を為す場合に於ては一の請求につき管轄権を有する裁判所にその訴を提起し得るのであつて、訴外伊藤忠商事株式会社の普通裁判籍を管轄する大阪地方裁判所に同会社と共に被告中野同菅野を共同被告として訴を提起することは訴訟法上許されているところであり、たとえ後日に至つて原告が伊藤忠商事株式会社に対する訴を取下げたにしても、管轄の適不適は訴提起の時を標準として定まるものであるから、一旦適法に繋属した同被告等に対する訴が後日伊藤忠商事株式会社に対する訴の取下によつて不適法となるものではない。また被告等は「伊藤忠商事株式会社に対しては原告は法律上遡求権を有しないのに拘らず同会社に対して訴を提起し被告等をその共同被告として大阪地方裁判所に訴を提起したのは不当である」旨主張するが、伊藤忠商事株式会社に対して原告が遡求権を有するか否かは本案の裁判に於て判断せらるべき事柄であつて管轄の有無を定めるについて判断すべき事柄ではない。殊に弁論の全趣旨と成立に争ない甲第三号証とによれば本件第一の約束手形については原被告等間に大阪地方裁判所を以て管轄裁判所とする旨の管轄の合意が存することを認め得るのであるから、斯る点から見ても被告等の本案前の抗弁は理由がない。

よつて更に進んで本案について判断するに、被告等が原告主張の如く共同して原告宛に本件二通の約束手形を振出したこと、その後原告主張の如き裏書を経て訴外株式会社東京銀行が本件二通の手形を各満期に支払場所に呈示して支払を求めたがいづれも支払を拒絶せられ、原告はその後に於て東京銀行から戻裏書を受けて再び本件二通の手形の所持人となつたこと等は当事者間に争がない。

而して本件手形が振出された原因関係及びその後の弁済関係につき、原告は漁網類の製造販売を営む会社で被告は漁業を営んでいるものであるが、昭和二十六年三月二十日被告中野は原告から金七十五万四千三百三十円八十銭に相当する漁網を買受け、その代金支払の為に昭和二十六年三月二十三日被告等五名が共同振出人となつて原告宛に三通の約束手形を振出したところ、被告中野の営業の思惑違により期日に支払うことが困難となつたので、同年五月十八日に原告承諾のもとに之等三通の手形は書替えられ、(イ)金額二十万円満期昭和二十六年五月三十一日、(ロ)金額三十万円満期同年六月三十日、(ハ)金額二十五万四千三百三十円八十銭満期同年七月三十一日の約束手形(本件第一の約束手形)となつたこと、その後右三通の約束手形の弁済として被告中野から原告に対し同年五月三十日に金十万円、同年五月三十一日に金二十万円、同年七月五日に金二十万円、以上合計金五十万円を支払い、これによつて右(イ)(ロ)二通の手形は決済せられ(ハ)の本件第一の約束手形が残つたこと、次いで昭和二十六年七月二十四日から同月三十日迄の間に被告中野が原告から金四十二万七千五百円に相当する漁網を買受け、その代金支払の為に被告中野と被告菅野の二名が共同して原告宛に金額四十三万円満期同年十月三十日なる約束手形一通(本件第二の約束手形)を振出したこと、そして其の後に於て被告中野から原告に対し同年十月十七日に金二十万円、同年末頃金一万円、昭和二十七年六月二十四日に金十五万円、以上合計金三十六万円を支払つたこと等は弁論の全趣旨に徴し当事者間に争ないところである。

ところで被告等は「右金三十六万円の弁済金の法定充当によつて本件第一の手形は既に支払済となり、本件第二の手形は金三十二万四千三百三十円八十銭が残存するのみである」と主張するのに対し、原告は「被告中野との間の前記第一回目の漁網の取引に関してはその代金七十五万四千三百三十円八十銭の外に金十八万二千二百十四円の追加代金債権があり、昭和二十六年十月十七日に被告中野から支払を受けた金二十万円は右の追加代金の支払として受取つたもので、その剰余金一万七千七百八十六円は本件第一の約束手形金の内入に充当し、昭和二十六年末頃の金一万円と昭和二十七年六月二十四日の金十五万円は本件第二の約束手形の内入に充当する約束のもとに受取つたので之に充当した」旨主張するので、此の点につき按ずるに、

先ず証人竹田静雄(第一、二回)同扇谷久美同渥美大三郎の各証言を綜合すると、前記第一回目の漁網の取引については被告中野は訴外吉田良治郎と共に原告の特約店たる訴外三和産業株式会社を通じて、被告中野の分は漁業資材購入券の綿糸換算量三五四玉、訴外吉田の分は四九二玉として注文し、原告はこの注文に基き未だ購入券の交付を受けない前に他の不要不急の需要者からの注文によつて買入れた綿糸を使つて漁網を製造し、三五四玉六分の漁網を被告中野に引渡して了つた。ところが実際に購入券の交付を受けてみると被告中野と訴外吉田の間に入繰りがあつて、被告中野の購入券の綿糸換算量は二四〇玉分しかないことが判明し、従つて被告中野に対しては購入券の綿糸割当数量よりも一一四玉六分を余計に引渡したことになり、ために他の需要者から注文を受けた漁網を製造するにはそれだけ綿糸が足らなくなつて了つた。

そこで原告は被告中野や特約店三和産業株式会社と協議の上被告中野の次期割当購入券を以て右不足分を補うことになつたが、当時綿糸の公定価格が改訂せられたため次期割当購入券をもつて綿糸を買付けるには一一四玉六分で合計金十八万二千二百十四円余計に支払はねばならないことになつた。よつて原告は被告中野に対し同額の償還請求権を有することとなり右金額を追加代金として被告中野に通告し当時被告中野も之を承認していたことを認めることが出来る。そうすると被告中野は第一回目の漁網取引に関しその代金七十五万四千三百三十円八十銭の残金たる本件第一の約束手形の外に更に金十八万二千二百十四円の支払義務があるものということが出来る。

而して前述の如く被告中野が昭和二十六年十月十七日に金二十万円同年末頃金一万円昭和二十七年六月二十四日に金十五万円を弁済するについて、同被告が何等充当の指定をしなかつたことは同被告の自認するところであり、そして証人竹田静雄の証言と弁論の全趣旨とによれば、右第一回の漁網取引代金七十五万四千三百三十円八十銭の残額二十五万四千三百三十円八十銭については被告等五名共同振出に係る本件第一の約束手形が存するのであるが、追加代金十八万二千二百十四円については手形も振出されず被告中野個人の債務となつて居り、且つ昭和二十六年十月十七日に支払われた金二十万円は被告中野から出た金で本件第一の約束手形金を完済するには足りない金額なので、原告は之を受取る際先づ前記追加代金に充当して之を完済せしめた上その剰余金一万七千七百八十六円を本件第一の約束手形の内入に充てることを言明して受取つたことが認められ、また被告中野が昭和二十六年末頃支払つた金一万円は本件第二の約束手形もその満期たる同年十月三十日に不渡となつたので原告から被告中野に交渉した結果その猶予方を懇請して取敢えず金一万円を支払つたので原告は之を第二の手形の内入として受取り、次いで昭和二十七年に至つて原告が先づ本件第二の手形金取立の為に訴を提起したので、その訴提起後の昭和二十七年六月二十四日に被告中野が円満解決を希望して本件第二の手形の内入として金十五万円を弁済したものであることを認めることが出来る。

被告等代理人は以上の支払金合計三十六万円については法定充当が為さるべきものであると主張し、若し原告が本訴に於て充当指定の意思表示をするのであれば之に対して異議を述べると主張しているが、原告は本訴に於て充当指定をしたのではなくて充当の事実関係は以上認定の通りであるから被告の異議は何等その効力を生ずる余地がない。

而して以上認定の事実によれば、本件第一の手形については尚金二十三万六千五百四十四円八十銭残存していることが明かであるから、該手形の共同振出人たる被告中野同菅野同大阪同熊谷同遠野の五名は連帯して原告に対し右金員及び之に対する該手形満期後の昭和二十六年八月一日から完済に至る迄年六分の割合によるる遅延損害金を支払う義務があり、また本件第二の手形については尚金二十七万円残存していることが明かであるから、該手形の共同振出人たる被告中野同菅野の両名は連帯して原告に対し右金員及び之に対する該手形満期後の昭和二十六年十一月一日から完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて右の限度に於て原告の本訴請求を正当と認め、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条第九十三条を適用し、尚原告勝訴の部分につき仮執行を許容し、主文の通り判決する。

(裁判官 石沢三千雄)

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